■こんな本を読んだ −−2008年2月


◎雨宮処凜『生き地獄天国 雨宮処凜自伝』ちくま文庫
凄すぎる内容。はじめは切なく、もどかしく読んでいたけど、だんだんと背筋がゾクゾクしてきて、しまいには圧倒された。生やさしい自分探しをしている若い人たちに、強く勧めたい一冊。鈴木邦夫氏も後書きで書いている。「これはもう現代の『聖書』だ。認めたくはないが、これは事実だ。苦しみ、悩み、絶望して死ぬ。そして復活した。奇跡の物語だ」と。

◎森絵都『DIVE!(上・下)』角川文庫
高飛び込みに懸ける少年たちの青春を描く。好きだなぁ、こういう作品。ライバルストーリーなのに、悪者がいない。みんなが一所懸命。読後がさわやか。ラストのダイブシーンなど、今読み返しても目が潤んじゃいましたよ。

◎安部公房『砂の女』新潮文庫
紹介するまでもない薄っぺらの小説を続けて読んだあと、口直し(?)に再読。人間の希望と絶望、存在理由、土地にしがみつく者たちの因習など、いろいろな面から揺さぶりをかけてくる。10歳代で読んだときは、男と女の行方だけに関心があった。それからだいぶ大人になりました。

◎筒井康隆『家族八景』新潮文庫
人の心が読める特殊能力をもった家政婦の少女を通じて、勤め先の家族の「表」と「裏」をえぐり出す短編集。恥ずかしながら、筒井康隆にこういう作品があるとは知らなかった(SFとブラックユーモアばかりと思っていた)。時代を超えて読み継がれる作品には、人間の本質に迫る深みがあると感じ入った次第。

◎桜庭一樹『少女には向かない職業』創元推理文庫
タイトルと装丁が気になるという、ぼくには珍しい理由で買った一冊。脆くて振り幅が大きい少女たちの心情をうまく綴っていて、なかなかの見つけ物だった。ちょうど読み終えたころ、著者の直木賞受賞を知って、この作家ならと納得。

◎桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』富士見ミステリー文庫
この作家は、日常のなかに一筋縄ではいかないストーリーを持ち込み、いわゆる問題作に仕上げるのを得意とするようだ。本作も児童虐待がテーマ。おぞましい結末なのに、読後に希望を感じてしまうのが不思議。そこが作者の力量なのだろう。

◎竹内真『自転車少年記 あの風の中へ』新潮文庫
自転車好きなら「ああ、わかる」という内容の連作短編集。青年から中年へと、成長に従って変化していく自転車とのつきあい方に、リアリティがある。

◎宮部みゆき『理由』朝日文庫
近代型マンションで起きた奇妙な殺人事件の真相を、ルポルタージュタッチで描いた小説。表現手法に気になる部分もあるけど、ずんずん読んだ。宮部みゆきクラスの作家って、やっぱり巧いですね。

◎荻原浩『明日の記憶』光文社文庫
若年性痴呆症を患った広告マンの心境を、主人公の視点で描く。徐々に記憶が失われていく恐怖感と、現実を受け入れていく様がじわりと伝わってくる。ラストシーンで「出会った」奥さんの複雑な心情を思うと切ない。

◎貫井徳郎『崩れる 結婚にまつわる八つの風景』集英社文庫
短編集で読みやすそうだったから、古書店で何気なく買ったのだけど、アタリだった。登場人物が少しずつ壊れていく様子がリアルに描かれ、きちんとオチも用意されている。結婚生活の実態がややステレオタイプのようには感じた。

◎真保裕一『ホワイトアウト』新潮社文庫
まだプロローグのあたりを読んでいるところだけど、おもしろいこと間違いなし、の予感大。こういうサスペンス・アクションも、けっこう好きです。

◎恩田陸『蛇行する川のほとり』中公文庫
女子高校生の非日常体験から、忘れていた過去が蘇る。著者のこういうシチュエーションには常にビビッとくるのに、この作品はキレが悪いように感じた。結論までちょっと引っ張りすぎかも。

◎恩田陸『象と耳鳴り』祥伝社文庫
元検事の初老の男が、日常の出来事やささいな事件の実相を推理していく。犯人捜しをしない推理物というジャンルが、ぼくには新鮮に感じられた。それにしても、恩田陸って人は懐が広い。

◎岡島二人『ちょっと探偵してみませんか』講談社文庫
『象と耳鳴り』の影響で、こういうのも読みたくなった。一編が数ページの短編ミステリーで、謎解きの前に「みなさんはもうおわかりですよね?」と読者を挑発する。『ショートショートランド』という雑誌に連載していた当時(20年以上前)はほとんど解けなかった。いまは年を重ねて知恵がついた分、3分の1くらいは何とか…。

◎杉山春『ネグレクト』小学館文庫
育児放棄の末に女の子を殺してしまった両親と、その周辺を丹念に取材したルポルタージュ。育児放棄や児童虐待をとりまく、やりきれない現状を描く。亡くなった子が哀れ。

◎蔭山昌弘『四十九日 突然、息子が逝ってしまった』幻冬舎文庫
大学生の長男を事故で失った父親が、事故発生の報せからの50日間を綴った手記。かつて世話になった人がまだ若い息子を自殺で亡くし、葬儀の席で声を絞り出すように挨拶していたのを思い出し、何度も涙してしまった。

◎高橋秀美『はい、泳げません』新潮文庫
水恐怖症の著者が泳げるようになるまでの奮闘記。「泳ぐ」という行為に対して、これほど思索する人もいるんだと感嘆。でまた、禅問答のようでいて、実は本質的な指導をするコーチがいることにも感嘆。

◎ナンシー関、リリー・フランキー『小さなスナック』文春文庫
あのリリーさんに対して、姉御のように振る舞えるのがナンシーさんの魅力。この対談の雑誌連載中にナンシーさんが急逝し、リリーさんの追悼文で締めくくられている。

◎荒木一成・柳田理科雄『恐竜大戦!』メディアファクトリー
◎あさのあつこ・福江純『近未来入門!』メディアファクトリー
◎ケンタロウ・柳田理科雄『空想キッチン!』メディアファクトリー
いずれも「ナレッジエンタ読本」シリーズ。その道の第一人者に話を聞くという形ではあるが、柳田理科雄やあさのあつこといった個性的な質問者を起用し、基礎知識から先端知識まで、おとぼけ、脱線、ユーモアを混じえて縦横無尽に語る楽しい対談となっている。次回の刊行を心待ちにするほど、ぼくにとってはヒットシリーズ。
ただ、個々の内容に深入りせず、広く浅く触れているところが少々食い足りない。入門書だと思えばしょうがないか。

◎佐藤和歌子『間取りの手帖remix」ちくま文庫
賃貸住宅情報誌などから集めた珍妙な間取り図に、シャレの利いた一言コメントを添えただけの本。間取り図好きにはたまらないのだけど、この感覚、なかなか理解してもらえないだろうなぁ。


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