■こんな本を読んだ −−2008年12月


◎梁石日『闇の子供たち』幻冬舎文庫
タイのスラム街で行われている人身売買・幼児売春をリアルに描く問題作。人間はなぜここまで悪になれるのか。行き場のない子どもたちに未来はないのか…。繰り返されるおぞましい描写が、「現実から目を背けるな!」と鋭く迫ってくる。

◎荻原浩『神様からひと言』光文社文庫
食品メーカーのお客様相談窓口(実はリストラ要員のたまり場)で奮闘する、若手社員の物語。クスッと笑わせる小技をちりばめながら、ラストの大立ち回りになだれ込んでいく展開が痛快。この作者は巧いですね。

◎恩田陸『月の裏側』幻冬舎文庫
説明不能な作品。水郷を舞台に、水に飲まれた人間が「人間もどき」に変わるというプロットじたいは、異星人SFまたはホラー。しかしその正体は最後まではっきりせず、また「人間もどき」になっても人格が変わるわけじゃない。じゃぁなにを恐れるんだ…? との問いかけを、どう受け止めたらいいのやら。
それはそれとして、作品全体を通じる不可思議な居心地の悪さが、強く印象に残った。そんな感じも、けっこう好みです。

◎川端裕人『おとうさんといっしょ』新潮文庫
出産・育児に関わる若い父親の、可笑しくてちょっと悲しい心情をまとめた短編集。育児記のたぐいをずいぶん読んできたが、この作品の視点や切り口は新鮮だった。ほのぼので終わらないところがよい。

◎川端裕人『夏のロケット』文春文庫
高校時代の天文学部の仲間が、大人になってから財力と社会的地位を利用して、真面目にロケット打ち上げを目指す。科学技術に関する記述にイマジネーションが刺激され、ワクワクしながら読み進めた。こういう作品ジャンルをハードSFということを、後で知った。

◎小川一水『天涯の砦』早川書房
ハードSFをもっと読みたいと思い、ネットで教えてもらった作品。大事故を起こした宇宙ステーションに取り残された、年齢も経歴もバラバラの9人が生還を目指したサバイバル物語。登場人物の経歴がストーリーに幅を持たせ、二転三転する事態の伏線ともなっている。無重力・真空空間での格闘シーンでは、読みながらホントに手に汗を握っていた。重厚かつリアルで、ぼくの好みのど真ん中ストライク。

◎野尻抱介『天使は結果オーライ』富士見ファンタジア文庫
同じハードSFでありながら、こちらは軽妙かつユーモラスな物語。なにしろ、女子高生が宇宙飛行士となって活躍するというのだから…。こんなライト感覚な話も、好きです。

◎桜庭一樹『推定少女』角川文庫
閉塞感漂う現実から逃れる、少女たちの逃避行。事件と絡めてミステリー仕立てになっており、飽きることなく読まされる。初版時には不採用となったエンディングも掲載されているが、そのためにかえって散漫になった感じがする。勢いで押すのか、立ち止まって詳説するのか。どっちかにしてほしかった。

◎阿部夏丸『泣けない魚たち』講談社文庫
川を舞台にした少年たちの物語。ノスタルジーに満たされ、とても切ない気持ちになった。キャンプ好きの娘にも勧めてみた。彼女がどんな感想を抱くのか、興味津々。

◎ヴェルマ・ウォーリス『ふたりの老女』草思社
飢饉にさらされたアラスカの地で、口減らしのために置き去りにされた2人の老女が、厳冬を生き延びていく。年配者が持っている経験と知恵は集団の財産であることを、おだやかに訴える。

◎日本テレビ「報道特捜プロジェクト」『イマイと申します。−架空請求に挑む、執念の報道記録』新潮文庫
架空請求詐欺の実態を、電話を武器にあぶり出していくドキュメント。イマイさんの執念に実行犯が本音を漏らすシーンなどは、まさに報道の真骨頂。

◎辻井喬・上野千鶴子『ポスト消費社会のゆくえ』文春新書
セゾングループの隆盛と衰退を、グループ代表に語らせる。その時代をほぼ体感している者として、興味深い内容だった。セゾングループの成功も失敗も、つまりは辻井(堤清二)のパーソナリティにあったようだ。その辻井が、上野の鋭い追及に終始押されれっぱなしなのがおかしかった。

◎島田律子『私はもう逃げない−自閉症の弟から教えられたこと』講談社文庫
自閉症の弟がいる著者が、自身の心情を吐露する。島田家の30年に起こった、辛かったことも、嬉しかったことも、赤裸々に描かれる。

◎恩田陸『小説以外』新潮文庫
著者の人となりに興味があったので、エッセイ集を買ってみた。興味深い作品がいくつも紹介されていて、ブックガイドとしても役に立つ。それにしても恩田さんは、本を読んで、酒が飲めれば、幸せなんだな…と、よくわかった。

◎高橋秀美『やせれば美人』新潮文庫
体調を崩すほど太ってしまったパートナーを思い、ダイエットの世界を調べていくエッセイ。著者がいくら考察を重ね、実践を勧めても、自身の生活パターンを固持するパートナーとの関係がユーモラス。

◎石田ゆうすけ『行かずに死ねるか』幻冬舎文庫
自転車で世界一周の旅をした青年の道中記。ちんまりとした人生を歩んでいる自分は、こういう豪快な旅行記に惹かれます。

◎小林朋道『先生、シマリスがヘビの頭をかじっています!』築地書館
人間動物行動学を専門とする著者の身の回りで起こる、動物たちの珍事件・エピソード集。著者のすっとぼけ具合が、なんとも味わい深くていいんですよねぇ。


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