■こんな本を読んだ −−2010年2月

ここ1年くらい、ミステリーやアクション、サスペンスものを多く読んでいる。
そのぶん、短編集や事評・エッセイなどを読む機会が減った。
短期間で嗜好がだいぶ変わったことを、自分でも不思議に思う。


◎重松清『くちぶえ番長』新潮文庫
少年時代の甘く切ない思いを凝縮した掌編。

◎重松清『疾走(上・下)』角川文庫
過酷な家庭に過ごし、まさに人生を駆け抜けた少年の破滅的な生涯を描く。『くちぶえ番長』とはまったく毛色が違うけど、どっちもハマって一気読み。

◎高美広春『バトル・ロワイヤル(上・下)』幻冬舎文庫
言わずと知れた問題作。登場人物の内面が丁寧に描かれ、重厚なサスペンスとなっている。観てはいないけど、たぶん映画より原作のほうが数段いいだろうと思った。

◎黒部洋『そして粛正の扉を』新潮文庫
完全武装した女性教師が、生徒を人質にして教室に立て籠もる。その異常な行動の背景には……。生徒の描き方が、ややステレオタイプだが、無自覚の悪意はきちんと描かれる。教師に共感してしまう自分が怖い。

◎荻原浩『押入れのちよ』新潮文庫
ホラー、ミステリー、コメディと、さまざまなテイストの作品を揃えた短編集。温かい気持ちになったり、唸らされたり。この作家は実に巧い。

◎東野圭吾『天空の蜂』講談社ノベルス
テロリストが自衛隊ヘリコプターを無人操作し、原発破壊を企てる。そのヘリには、たまたま居合わせた子どもが乗っていて……。手に汗握るサスペンス大作。

◎有川浩『海の底』『空の中』角川文庫
海中から巨大ザリガニが大挙して上陸し、社会が大混乱したり(前者)、はるか上空に未知の生命体が現れ、人類との交流を模索したり(後者)と、設定はともに奇想天外。でも空想的にならず、リアリティを伴って展開していくストーリーが巧み。登場人物もそれぞれに個性があって、共感できる。こういう作品、大好き。

◎梶尾真治『黄泉がえり』新潮文庫
九州の特定の地域で、多数の死者が突然〈復活〉して日常生活に戻る。その現象が巻き起こす出来事を、一人一人のドラマとして描く。散らばっている人々が徐々に集結し、クライマックスへと向かう展開に引き込まれた。

◎高村薫『黄金を抱いて翔べ』新潮文庫
◎五條瑛『ヨリックの饗宴』文藝春秋
ともにミステリー大作。同じ読後感を抱いた。面白いし巧いんだけど、ぼくには文章が硬すぎる。背景の組織人脈を広げすぎのような気が……。

◎宮島茂樹『不肖・宮島 踊る大取材線』新潮文庫
◎ 同 『不肖・宮島 金正日を狙え!』文春文庫PLUS
不肖・宮島のプロ根性がとにかく凄い。スクープ写真のためには、なんでそこまで……ってことも平気でする。こういうカメラマンも、世の中には必要ですな。

◎島村英紀『私はなぜ逮捕され、そこで何を見たか』講談社文庫
◎田中森一『反転 闇社会の守護神と呼ばれ』幻冬舎アウトロー文庫
これらを読むと、検察の暗部がよくわかる。民主党の小沢幹事長を巡る問題も、正義の検察VSダーティーな政治家などという単純な構図では見られなくなる。

◎山本譲司『獄窓記』『累犯障害者』新潮文庫
汚職で逮捕された政治家が、獄窓で体験したことを綴ったノンフィクション。後者は、犯罪を重ねる障害者にスポットを当てている。障害者に対する司法の無理解、福祉行政の怠慢が、累犯を招く。そんな現実を世に知らしめた作品。

◎能町みね子『オカマだけど、OLやってます。完全版』文春文庫
◎D・N・マクロスキー『性転換 53歳で女性になった大学教授』文春文庫
◎ジョン・コラピント『ブレンダと呼ばれた少年』無名舎
自ら望んで(前二作)と、ある事情で(『ブレンダと―』)の違いはあるが、ともに性の越境者の現実と内面を描いたノンフィクション。『ブレンダと―』で描かれる、周囲の無知と偏見、科学技術への過信には、背筋が寒くなった。

◎一橋文哉『ドナービジネス』新潮文庫
ぎりぎり合法、あるいは非合法の、臓器ビジネスの実態を描くルポ。梁石日が『闇の子供たち』で描いた人身売買や、帚木蓬生が『臓器農場』で描いた無脳症児ビジネスが、現実に行われていると知り、ゾッとする。臓器移植問題を考える際に、一読を勧めたい。

◎ロバート・F・マークス「コロンブスそっくりそのまま航海記」朝日新聞出版
20世紀の情熱家が、500年前にコロンブスが新大陸を発見した航海を再現しようと試みる。当時の資料をもとに船を復元し、史実にもとづく食糧と、当時の装備を積み込み、当時の衣服を着込んで出港するが……。当人は大まじめながら、傍目には馬鹿げた冒険でしかない。そのギャップが面白い。

◎松井計『ホームレス作家』『ホームレス失格』幻冬舎アウトロー文庫
◎ 同 『家族挽回 離れてくらす娘との春夏秋冬』情報センター出版局
家庭の事情で収入を失い、一家離散、自身はホームレスとなった作家が、社会復帰し家族を取り戻す過程を綴った手記三部作。『家族挽回』では、不可解な行政対応への訴訟が中心に描かれる。

◎森巣博『無境界家族』集英社
国際的賭博師兼作家の夫(著者)、大学教授の妻、天才的頭脳をもつ息子という、異彩を放つ家族の教育方針とは? 日本という国の異常さをちくりちくりと指摘しながら、オーストラリア在住の破天荒ファミリーの姿を描く。

◎汐見稔幸『お〜い父親 Part I[子育て篇]』『同 Part II[夫婦篇]』大月書店
毎日新聞に連載された同名コラムの単行本作品。ジェンダー問題や、家族・家庭での役割について、リベラルな立場から様々な提言をする。

◎いかりや長介『だめだこりゃ』新潮文庫
ちょうさんの自伝。ドリフターズの誕生の経緯や、人気番組の舞台裏など、興味深い内容が満載。

◎赤瀬川原平『老人力』筑摩書房
著者および路上観察学会の面々の、発想の柔軟さときたら。言葉遊びの楽しさを存分に味わい、凝り固まった考えを解きほぐすのに最適。

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