■こんな本を読んだ −−2013年2月

◎三浦しをん『神去なあなあ日常』徳間書店
なりゆきで林業に携わることになった青年の成長物語。林業の衰退とか地方の疲弊とか、大御所からの話はさておいて、のほほんと過ぎていく日常の愉悦が描かれている。軽妙な語り口がクセになりそう。

◎東野圭吾『秘密』文春文庫
事故で死亡した妻の心が、生き残った娘の心と入れ替わり……と、ありがちな設定。けれど、読み手が予想する展開を軽々と超え、夫婦とは、親子とは、と深遠なテーマに迫っていく力量はさすが。エンディングの切なさが胸に染みいった。

◎沢井鯨『P.I.P.ープリズナー・イン・プノンペン』小学館文庫
カンボジア警察に謂われのない罪で収監された著者の、実体験を元に書かれた小説。構成や文章に難ありとの声が多いが(アマゾンのレビューとか)、単純に、エンタメアクションとして面白かった。カンボジアの警察当局の酷さが、その後改善されたと思いたいけれど、どうなのだろう。

◎梁石日『血と骨』幻冬舎文庫
著者の父親をモデルにした小説というが、こんな理不尽な男が本当にいたのかと疑いたくなる。頼れるものは己の身体のみ。暴力と執念で世間と対峙し、家族に対してすら愛情というものを抱かない。なぜそんな人間になったのか知りたいのに、生い立ちに深入りしないなど、作品としての完成度は疑問。けれど、そんな周囲の評価など関係なく、著者は本作を書かざるをえなかったのだろうと邪推する。

◎湯本香樹実『夏の庭ーThe Friends』新潮文庫
ミクシィの読書コミュニティで、小四の息子へのお勧め本として教えてもらった作品。少年たちの素朴な好奇心。徐々に近づく老人との距離。出会いと別れを経て、より広い世界へを歩み始める少年たち。……なるほど、多感な時期に勧めたい良作。

◎久坂部羊『廃用身』幻冬舎
これもミクシィの、マイミクさんの勧めで手にした一冊。半身麻痺などで回復の見込みがない老人に施す究極の医療「Aケア」とは? 架空の奥付があるなど巧妙なつくりで、ノンフィクションと思い込んで読み進めた。中ほどでフィクションと気づいたのだけど、その後も、現実なのか虚構なのか混乱しながら読了。老人医療の在り方への問題提起か、スキャンダラスな小説か、どう受け止めたらいいか未だわからない。

◎石井光太『物乞う仏陀』文藝春秋
同『レンタルチャイルド』新潮文庫
同『地を這う祈り』徳間書店
『レンタル…』の文庫購入を機に、三作を順に読み直した。アジアの最貧層に目を向け、自ら飛び込んで現実を暴露していく著者の勇気と行動力に圧倒される。悲惨だけど、目を背けてはいけない現実が、世界のそこかしこにある。

◎永瀬俊介『19歳 一家四人惨殺犯の告白』角川文庫
内容はほとんど覚えてなく、残っているのは、「著者は犯人の心に迫ることができなかった」という読後感のみ。ルポとしては物足りないこと甚だしいのだけど、仮に別の手練れのノンフィクションライターだったらどうか、と考える。相応に納得できる結論に至り、犯人の内面を理解した気分になった? 実際にはそんなの不可能だよ……と知らしめる意味が、この本にはあるのかもしれない。

◎カーラ・ノートン『死体菜園』翔泳社
社会的保護を必要とする人たちの下宿を営む善良な老婦人が、実は下宿人を殺害して給付金を横領する犯罪者だったーー。そんな実際の事件の、発覚から裁判を経て評決が下されるまでを緻密に描くノンフィクション。

◎山口椿『死体の博物誌』幻冬舎アウトロー文庫
人の死と死体にまつわるエトセトラ集。多数掲載されている写真は、かなりグロテスク。同様のテーマだったら、下川耿史『死体と戦争』(ちくま文庫)のほうが入りやすいです。関心があれば、の話ですが。

◎斉藤博子『北朝鮮に嫁いで四十年ーある脱北日本人妻の手記』草思社
在日朝鮮人の妻となり、帰国政策で北朝鮮へと移住した日本人女性の手記。著者は、不条理をも運命と受け止めるような、ある意味受け身の年配の女性。淡々と綴られる拙い文章には誇張も政治的な主張もなく、それだけに、かの国のおぞましさがまざまざと伝わってくる。それにしても、脱北するまで政府に対して疑問を抱かなかったというのは、言論統制がくまなく行き届いている証拠か、著者が純朴すぎるのか。

◎坂口恭平『TOKYO一坪遺産』春秋社
シンプルな生き方を提案し、東日本大震災後に注目されている建築家の、原点を綴ったエッセイ集。視点を変えるとものの見え方が変わるという、単純かつ当たり前の提言に、目からウロコが落ちる思いをした。そして自分の頭の堅さを思い知る。

◎金賛汀『ある病院と震災の記録』三五館
阪神淡路大震災で唯一被災を免れた総合病院の奮闘記。スタッフ間の摩擦やボランティアへの苦言も忌憚なく綴られ、貴重な記録となっている。

◎下関マグロ『まな板の上のマグロ』幻冬舎文庫
雑誌の投稿欄で自宅の電話番号を公開したらどうなるか、といった体当たり企画をまとめたルポ(というかエッセイ)。当人は案外常識人。自身もハラハラしながら、でもやっちゃうあたりのドタバタ具合が面白かった。

◎片野ゆか『ポチのひみつ』集英社文庫
犬好きライターが愛犬と共に、忠犬ハチ公の生涯を追い、上野の西郷隆盛像が連れる犬の正体を探り、実在する(?)「花咲かじいさん」の愛犬を探す旅に出る。そんな感じの、ライトな動物ルポ。


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