■こんな本を読んだ −−2014年1月

このところホラーにハマってます。
サイコ、サスペンス、ミステリー、ファンタジー……と、
いろいろな傾向の作品があって、
未知の作家との新鮮な出会いが多いんですね。


◎遠藤徹『壊れた少女を拾ったので』角川ホラー文庫
グロテスクでシュールな物語が五話収録された短編集。三崎亜紀の『となり町戦争』『バスジャック』を数倍グロ度アップした、とでもいうか。オチやメッセージ性はなく、ただただ不条理。同時期に読んだ小林泰三『玩具修理者』(角川書店)もテイストが近い作品。

◎遠藤徹『くくしがるば』角川書店
『壊れた…』と同じ作者による、荒唐無稽なパロディ作品。シュールな世界は共通だけど、こちらは徹頭徹尾、うっとおしいまでの言葉遊びが展開する。読んでハマルか、メンドクサクなるかのどっちかですね。ぼくはハマッたほう。

◎恒川光太郎『夜市』角川ホラー文庫
魑魅魍魎の世界と現世との交錯を描いたファンタジック・ホラー。アマゾンのレビューに「千と千尋の神隠し」の名があったけど、なるほどそんな世界観。

◎貴志祐介『黒い家』角川ホラー文庫
◎高田侑『汚れた檻』角川ホラー文庫
◎矢部崇『紗央里ちゃんの家』角川ホラー文庫
◎吉村達也『鬼の棲む家』集英社文庫
『黒い家』と『汚れた檻』は、ミステリータッチで展開するサスペンスホラー。それなりに読み応えあり。後者二点は、読んだというだけで感想はナシ。

◎ドリアン助川『あん』ポプラ社
ネタバレ失礼。社会に対して投げやりな青年が、らい病患者だったおばさんと関わりをもつことで、徐々に変化していくさまを描いた掌編。淡々と穏やかに展開する文章に好感をもった。脇役の人物描写がやや軽いか。

◎三浦しをん『風が強く吹いている』新潮文庫
マイナー大学の初心者揃いの自称陸上部が、箱根駅伝に挑む青春ストーリー。こういう熱い話、好き。「ありえねー!」って思いながら、先の展開が気になってどんどん読んじゃう。

◎荻原浩『さよならバースディ』集英社文庫
◎同『あの日にドライブ』光文社文庫
前者は、霊長類研究センターを舞台に、実験対象のボノボを巡って展開するミステリー。後者は、冴えない中年男の悲哀を描くヒューマンドラマ。荻原浩作品はどれも安定してます。

◎福田和代『TOKYO BLACKOUT』創元社推理文庫
首都圏への電力供給の大動脈が何者かのテロによって分断された。大停電に直面した東京では何が起こるのか、犯人の目的は……。エンタメとしてよくできているが、震災後のいま読むと、リアリティがある部分とない部分とが顕わになり、迫力に欠ける面もいくらか。

◎水田美意子『爆弾テロリスト 灰色パンダ』宝島社文庫
一五、六歳の少女が書いたにしては、発想や構成がしっかりしてる。評価したいのはそこだけ。今後に期待。

◎ニッキ・フレンチ『生還』角川文庫
目が覚めたら、見知らぬ場所で拘束されていた。なぜそうなったのかの記憶は抜けている。命からがら脱出し、警察に届けたものの、狂言を疑われて信用されず。犯人の影に怯えつつ、過去に遡りながら自分の身に起こったことを探っていくと……。深みがあって読ませるミステリーだが、登場人物が多い翻訳物が苦手なぼくは、何度か中断しながら読み進めた。ラストのスリリングな畳みかけに救われた気分。

◎中島久枝『ドーバーばばあ』新潮文庫
ドーバー海峡横断に挑んだ五〇〜六〇歳代の主婦六人のドキュメント。職場や家族との軋轢を乗り越えてやってみたいと思える[何か]があるのが素敵。

◎国分拓『ヤノマミ』新潮文庫
アマゾンの先住民「ヤノマミ族」の生き方と、彼らを取り巻く環境を描いたノンフィクション。同じ人間として生まれながら、彼我の文化の違いに目まいがする思い。

◎杉山春『ルポ虐待−−大坂二児置き去り死事件』ちくま新書
若いシングルマザーが幼児を自室に置き去りにし餓死させた事件の実像に迫る。個人のパーソナリティ、親を含む周囲の人々の態度、社会福祉の実情、それぞれに正負がある中、負が連動すると不幸な事件が発生する。どこかで連鎖が断ち切れなかったのか、とやるせなくなる。

◎「新潮45」編集部編『凶悪ーーある死刑囚の告発』新潮文庫
殺人犯として収監中の元ヤクザが、明るみに出ていない連続殺人事件とその犯人をある雑誌に告発した。告発は本物か否か……。雑誌メディアの真価が問われる難題に応え、警察をも動かして「凶悪」を追い詰めてゆく、迫真の犯罪ドキュメント。

◎伊達政彦『傷だらけの店長−−街の本屋24時』新潮文庫
チェーン書店の店長を勤める著者が、書店業界の過酷な現状を赤裸々に綴ったエッセイ。「本が好きなら、本屋にはなるな」という甥っ子への説得が哀しい。閉店のエピソードには、しばしば通っていたお気に入りの書店が閉店したときを思い出し、胸が締め付けられた。

◎石川拓治『奇跡のリンゴ 「絶対不可能」を可能にした農家 木村秋則の記録』幻冬舎文庫
完全無農薬無肥料で栽培され、その味は奇跡的と評されるリンゴの生産者の半生を描く。本人の思想や苦悩に共感しつつ、ところで家族のホンネは?という疑問が最後まで残った。数年もの無収入状態を、妻や子どもがどう受け止めたのか。美談ではくくれない現実も、潔く描いてほしかった。

◎?井研『微生物ハンター、深海を行く』イースト・プレス
地球の原始生命発生の謎を探究する研究者の半生記。軽いノリ、くだけた口調で綴られる文章に、「ホントに最先端科学者なの?」と疑問を覚えるが、事実、凄い人(らしい)です。本書は研究者のメンタリティを綴ったもので、研究の成果については『生命はなぜ生まれたのか―地球生物の起源の謎に迫る 』(幻冬舎新書)を、とのこと。そちらも読みたいですねぇ。


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