■こんな本を読んだ −−2015年2月

◎ハリエット・アン・ジェイコブズ著、堀越ゆき訳『ある奴隷少女に起こった出来事』大和書房
約一五〇年前、アメリカで奴隷の子として生まれ育ったた女性の手記。成長するにつれ白人主人から性的対象として見られるようになり、愛人になるように命じられる。あの手この手で逃れ、しまいには知人宅の屋根裏に隠れて何年間もすごすことに。後年ヨーロッパに逃れた著者が執筆して出版されたが、フィクションだと思われ世間に認められなかった。一三〇年の時を経て、歴史学者が調査したところ、事実に忠実な自伝だと判明し、電子書籍として再版される。それを原語で読んだ訳者が衝撃を受ける。訳者は一般の勤め人だったが、「女性に対する抑圧や差別は、過去も現在も共通する問題を内包している」と問題意識を抱き、翻訳して一般書として公表する決意をした。というように、幾多の経緯を経て現代に届いた本なのでした。奴隷制度の理不尽さが、あたかも現在進行形のようなリアリティを伴って伝わってくる。

◎石井光太『津波の墓標』徳間書店
著者には『遺体 震災、津波の果てに』というルポルタージュがあるが、そちらには載らなかったエピソードや心象をまとめたエッセイ。津波被害にあった店から物を運び出す、窃盗犯と見られる女性に怒声を投げつけられたというエピソードが、やるせなく、やけに印象に残っている。

◎角幡唯介『空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む』集英社文庫
チベットの山奥に、水量や谷の深さではグランドキャニオンを上回ると言われる大峡谷がある。過去に数多の探検家が踏破を試みたものの、断崖の険しさに阻まれて五マイル(約八キロメートル)の範囲が未踏となっていた。その「空白の五マイル」に日本の若い探検家がチャレンジした顛末記。探検モノというよりも成長物語といった趣。著者の思い入れや迷い、試行錯誤が前面に出ていて、それはそれで面白かった。

◎堂場舜一『オトコのトリセツ』マガジンハウス
ハードボイルド作家がモノに対する「男のこだわり」を綴ったエッセイ。若いころにこういうのをいくつも読んで、「渋い大人になりたい」と思ってたな……と、懐かしくなって読んでみた。けど、モノへのこだわりなどないユニクロ親父(=ぼく)にとっては、別世界のお話でした。

◎熊谷達也『邂逅の森』文春文庫
大正から昭和の初めを舞台に、秋田のマタギの人生を描いた熊谷達也の出世作。こういう作品、大好き。二重丸。

◎小川一水『煙突の上にハイヒール』光文社文庫
◎同『時砂の王』ハヤカワ文庫
前者は、携帯型ヘリコプターで空中遊泳を満喫するOLや、超小型カメラを猫の首輪に付けて遊ぶ大学生など、近未来(現代?)テクノロジーとヒトとの関係をライトな感覚で描いた短編集。後者は、邪馬台国に突如現れた謎の「物の怪」と「戦士」、邪馬台国の女王の姿を描く時空トラベルSF。後者は、タイムパラドックスの話がややこしく、中盤からめんどくさくなった。

◎今野敏『怪物が街にやってくる』朝日文庫
伝説のジャズプレイヤーを主軸にした、ジャズにまつわる連作短編集。本書のように、音楽を文章や絵でうまく表現している作品に出会うと嬉しくなる。ジャズプレイヤーを目指す青年を描いたコミック「BLUE GIANT」(石塚真一、小学館)も読んでます。


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