イスラエルって、いまどうなの!?



 イスラエルに留学中のU太郎クンと、現地の様子についてやりとりしました。
 なお、これ以前のメールについても、下記サイトにて公開しています。
 あわせてご覧ください。(長文注意)


 本づくりハウス「雑文集」 http://www.irukanet.com/honzukuri/zatubun/afugan2.htm



2002年1月22日
東京 → エルサレム

先日の結婚式披露宴会場での無差別テロ以来、状況が一段と悪化しているようですね。
披露宴でのテロというのも、いくらなんでも無茶苦茶です。ここまでされると、ぼくとしてもパレスチナへの同情の気持ちが薄れてきます。
といって、イスラエルの報復攻撃を許す気持ちもありませんが。
(米国での自爆テロと報復攻撃と、ますます構図が似てきて不気味です……)

今朝の毎日新聞が、アラファトさんへの単独インタビューを掲載していました。
アラファトさんは、自分は正当に選ばれたパレスチナ人の代表であり、いまだ人心を掌握している、みたいなことを述べています。ただ、この泥沼をどうにかするためには、国際的な介入、ことにアメリカの仲介が必要だといっています。
この期に及んでアメリカに頼るしかないというのも、なんだか哀しい感じがしますが、どうなんでしょうか。



1月22日
エルサレム → 東京

> 先日の結婚式披露宴会場での無差別テロ以来、状況が一段と悪化しているようですね。

ややっこしい事件でした。実はあれは結婚式披露宴会場ではなく、バット・ミツバというユダヤ教のお祭りで、12歳になった女の子が成人になったのを祝うお祭りなのです。
本来は13歳になった男の子をお祝いするお祭りで、バル・ミツバというのがもとです。
ユダヤ教では13歳から男の子は聖書の勉強が始まりだし、正式に教会堂などに出入りすることが出来るのです。まぁ日本にも似たお祭りがあったと思いますが…
それに対してバット・ミツバは最近行われるようになった慣習らしく、主にパーティーを行ったりプレゼントを上げたりと、宗教色も薄いようです。日本のメディアが結婚披露宴会場と誤報したのも頷けます。
ただ朝日はちゃんと報道していたような気がしますが(もちろんネット上の話ですが)
…まぁどちらにしてもテロの標的にするには無茶苦茶な話です。

> 今朝の毎日新聞が、アラファトさんへの単独インタビューを掲載していました。

正直な所、ポスト・アラファトがいないのが最大の難点です。
イスラエル軍が繰り返してきた暗殺作戦のせいもあるのですが、アラファト自身が後継を育ててこなかったのも最大の原因です。
つまり彼が権力の独占に走り続けたツケがいま問題化しているのです。
もはやパレスチナの人々にとって政治的選択肢が限られているのが現状ではないでしょうか?

オスロ合意を期に、かつては無一文だったはずの現PLO幹部達は今では豪邸に住んでいる。
どこからお金が出てきたかはご想像にお任せしますが、アメリカや日本の出してきたお金がどのように使われてきたのかを私たち自身がチェックしなければならなかったのは明らかです。

アラファトも困った時はアメリカやEU、アラブなどいろいろな所にいって“助けてください”っていってますが、本人がどれだけパレスチナの事を想っているのかは、個人的に疑わしいです。
パレスチナの政治的な状況は、もうただのゲームに陥っているようにしか思えてなりません。
イスラエル独立の後ろ盾だったアメリカの力なくして、パレスチナの独立もまた得られないのが現実です。
何か現状が変わるとすれば、来年に行われるイスラエル総選挙位がその要因として考えられます。
ただ事態が好転するかどうかは疑わしいですが…


3月5日
エルサレム → 東京

先月中は、朝日新聞のホームページで、アメリカ同時テロの犯人グループの特集記事を読んでおりました。
50回にもわたり連載されたもので、犯人グループのリーダー“モハメド・アタ”の実像を描こうとした記事です。
今回のテロに絡み、アメリカの同時テロとパレスチナのテロの関連性を強調する記事をネット上で目にしたりもしましたが、アメリカ同時テロのリーダーであるモハメド・アタはエジプト出身でしかも父親は弁護士、そして本人はドイツのハンブルグに留学しておりハッキリいって貧しい環境で育った人物ではなく、これは今日のパレスチナの自爆テロとは完全に異なる点です。

以前はパレスチナのテロリストもそれなりの活動家が自爆テロを行っていたようですが、最近は若者や女性等による自爆テロも見受けられます。
イスラム過激派による自爆テロといってもいろいろな背景があるようなので、今後はよく調べてレポートいたします。


3月5日
東京 → エルサレム

> 先月中は朝日新聞のホームページでアメリカ同時テロの犯人グループの特集
> 記事を読んでおりました。50回にもわたり連載されたもので、犯人グルー
> プのリーダー“モハメド・アタ”の実像を描こうとした記事です。

毎日新聞読者としては、その名前をはじめて目にしました。
つまりは、このテロの首謀者(企画・実行グループのリーダー)はオサマビンラディンでなく、モハメド・アタだということでしょうか?
この人はやっぱりアルカイダの人なんですか?

> アメリカ同時テロのリーダーであるモハメド・アタはエジプト出身でしかも
> 父親は弁護士、そして本人はドイツのハンブルグに留学しておりハッキリいっ
> て貧しい環境で育った人物ではなく、これは今日のパレスチナの自爆テロと
> は完全に異なる点です。
> 以前はパレスチナのテロリストもそれなりの活動家が自爆テロを行っていた
> ようですが、最近は若者や女性等による自爆テロも見受けられます。

以前のメールのやりとりで、以下のように記しました。やはりそういう傾向があるようですね。
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 ところで、テロリスト発生の最大の理由は、やはり貧困なのでしょうか。
 ほうぼうの記事を散見すると、貧困打破の衝動がテロへ向かわせる、つまり貧困の直中にある者がテロを企てるというよりも、アメリカのグローバリズム=アメリカ至上主義と、それに冒されている中東各国家の政府の打破が必要と考える比較的教養のある者が、思想的に扇動して賛同者を集めている、という印象も持ちはじめています。
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パレスチナの自爆テロとは完全に異なる、ということは、自爆テロはもっと自然発生的な……というと語弊があるな、絶望の淵に立たされてやむにやまれぬ行動として……思想云々以前に、自らの生存を賭して……という悲壮なものがあるのでしょうか。
やはり東京にいる限り皮膚感覚がありません。
いずれレポートいただけたらありがたいです。

それにしても、自爆テロvs報復攻撃の連鎖は、果てしなくつづくのでしょうか。
希望を手に入れる方法は、ないのでしょうか。


3月22日
エルサレム → 東京

ご無沙汰してます、いかがお過ごしでしょうか?
ここ数日、イスラエル国内では自爆テロが相次ぎ、昨日もエルサレム市内で自爆テロがありました。こちらは無事に過ごしております。“過越しの祭”の為、本日から大学も二週間ほどの休みになります。


4月1日
東京 → エルサレム

元気ですか。
報道に接する限りでは、そちらは日一日と状況が悪化しているようです。
U太郎クンの周辺でも自爆テロに巻き込まれる緊張感は高まっているのでしょうか。
周囲の人々はやはり、イスラエル側の被害者がこれだけ増えているのだから、パレスチナ側をもっと徹底的にやっつけろ、という雰囲気なのでしょうか。
もし時間と気持ちに余裕があったら、そのあたり教えてください。

イスラエル首相に対する各国からの圧力は高まっているようです。
パレスチナ自治政府への攻撃の行方がどこなのか、不安を抱きつつ注視しています。


4月4日
エルサレム → 東京

先日、イスラエル人の友人から電話がありました。“そちらは大丈夫ですか?”といった安否の確認から始まり、“エルサレムの状況はとても悪いから気をつけて”といった話になりました。
イスラエル国民ですら危険と認識するような状況な訳ですから、本当に深刻な状況なのだと思います。

確かにパレスチナ地域に対する今回の本格的な侵攻は、予備役2万人を招集するなどその規模の大きさは以前の当地域に対する侵攻とは確実に異なります。
またアラファトを閉じ込め、イスラエル自らの手でテロリスト摘発に乗り出すなど、作戦そのものもイスラエルにとってリスクを伴うものであり、今回の作戦が終了するまでの期間は自爆テロなどによる被害がもっと深刻化すると思われます。
またイスラエル国内での自爆テロも、犯人が以前のような20代の男性から女性や子どもなどに広がった為、取締りの絞込みが出来ないと指摘されています。
さらに自爆テロの発生現場もアラブ系イスラエル人の経営するレストランなどにまで広がり、先月に起きたナザレ方面でのバスに対する自爆テロや、2日に起きたハイファでの自爆テロなどにはアラブ系イスラエルの被害者も出ています。
確実にアラブ人しか集まらない場所以外、もう人が集まる所で安全といえるような場所はありません。
これは私の生活圏も含め、イスラエル全土で言えることだと思います。

> 周囲の人々はやはり、イスラエル側の被害者がこれだけ増えているのだから、
> パレスチナ側をもっと徹底的にやっつけろ、という雰囲気なのでしょうか。

日本では最近、イスラエル国内での若者達による兵役拒否の運動に関する番組が放映されたようですが、先に述べた2万人の予備役召集にはその影響らしいものは出ていないそうです。
先日、ユダヤ教の神学生の友人と話していた中で、兵士の中には積極的に危険な現場を志願する人達が多数いる事を聞き、正直言って驚きました。
前線に送られる事は決して“貧乏くじ”とかではなく、自らの意志で前線に赴く事は美徳であると言ったもののようです。

イスラエル国民全体におけるパレスチナに対する態度について、イスラエル国内でパレスチナに対する武力行使が全面的な支持を受けているかはわかりません。
しかし現状では他に有効な手段がない事も事実であり、テロ防止のための手段の一つとして認められていることは確かだと思います。
イスラエルによる一連の軍事行動がテロに対する報復感情としての軍事行動なのか、テロを防止する為の軍事行動なのか、それともその両方なのかは判断できません。
ただ兵役拒否などの動きなどから見ても、決してそれが建設的な手段でない事はイスラエルの人々の間でも十分に認識されているのではないでしょうか?
果たして軍事力と言う暴力でテロと言う暴力を抑えられるのか、それはイスラエルとパレスチナにとって、また今後の世界にとっても無視できない問題であり、私達自身が自ら取り組んでいかなければならない課題だと思います。

> イスラエル首相に対する各国からの圧力は高まっているようです。
> パレスチナ自治政府への攻撃の行方がどこなのか、不安を抱きつつ注視しています。

イスラエル首相に対する各国からの圧力は、イスラエルに向けられるよりも、アメリカに向けられるべきだと考えています。
それはアメリカにこの紛争に対する責任があるというのではなくて、おそらくアメリカのみがイスラエルに対して有効な圧力をかける事が出来るからです。
それはアラファト自身も十分に知っており、彼がイスラエルとの交渉においてアメリカの仲介を必要としているのを見ればそれは明らかだと思います。

自治政府によるテロ取締りが出来ないのであれば、シャロンにとって今の自治政府は必要ないのも同じです。
ならば自治政府を事実上解体し、イスラエル自らの手でテロを取り締まり、ポスト・アラファトの新しいリーダーの下に自治政府を再構築し、その新しい自治政府と和平交渉を結んだ方がより都合が良いのではないでしょうか?
そうなるとパレスチナは形の上では独立するものの、経済的かつ政治的には完全にイスラエルの影響下に置かれる事態も有りうるでしょう。
イスラエルにとってはそれが最も望ましいのだと思います。
テロリスト上がりのアラブの英雄を排除し、新自治政府を使ってパレスチナを管理し、他のアラブ諸国との関係を修復し、そして安価な労働力をパレスチナから引き寄せ、イスラエルの資金が流れ込んだパレスチナ市場をイスラエルにとっての輸出先として確保する。
もし今まで通りにパレスチナ地域の土地を事実上管理でき、さらにテロを防げれるのであれば、イスラエルにとっても多少のリスクは覚悟出来るのではないでしょうか。

形式的なパレスチナ独立が、残念ながら中東を安定させる選択肢の一つであるというのが、私の個人的な見解です。
政治は正義と言うよりも、むしろ力関係であり、この事についてイスラエルのみを非難できる国があるとも思えません。
各国の非難からイスラエルを擁護するつもりは全くありませんが、今後の解決策を何一つ提示することなくただ非難ばかりをするのも無意味であり無責任だと思います。
たとえパレスチナ独立が形式的なものになったとしても、それを形式的なものから実質的なものへと変えていく可能性は十分にあるのではないでしょうか?
その点に関しては日本含めて他の国々も協力する機会があり、またそれの機会を積極的に活かしていく事は義務だとも思います。


6月11日
エルサレム → 東京

シャバット明けの夜の事。自室でコツコツと宿題をやっていると、何やら外から誰かがマイクで誰かに警告している声が聞こえてきました。
“また警察が何かを取り締まっているのだろう”と無視して机に向かっていると、いきなり“ダーーーンッ!”と一発の銃声が!
慌ててベランダから外の様子を窺ってみると(今思うとこれも危険!)、我が家のすぐそばにパトカーが停まってて、ちょっとビックリ!
銃声はその一発だけ。刺激の絶えない日常です。


6月12日
東京 → エルサレム

> シャバット明けの夜の事。自室でコツコツと宿題をやっていると、何やら外から誰
(中略)
> 一発だけ。刺激の絶えない日常です。

コメント、できないです。
何というか、“刺激の耐えない”状況でも、あたりまえだけど日常生活を送っている人がたくさんいる。エルサレムとはそういう場所なんですね…。


6月21日
エルサレム → 東京

いかがお過ごしでしょうか?
こちらは先日の事、フレンチ・ヒルから帰宅するためバス停目指して歩いておりました。
そしてバス停の手前3メートルまで至った所で、背後からいきなり巨大な爆音と共に爆風!
身をすくめながらもすぐさま振り向けば、200メートルほど先に立ち上がる煙そして何かが無数に飛び散っていくのが見え、唖然…ものの5分としない内にサイレンと共に軍やら警察、救急車などが怒涛のごとく押し寄せ、辺りは渋滞、さらに道路封鎖などもされ、1時間待てどバスは来ず…

危ない所でした、“ホント、生きて帰れる保障なんてないんだなぁ…”としみじみと実感。
この国で生きていく事って、やはり私達の感覚や物差では語れない現実だと思います。
この国の人たち、そしてこの国に生まれた人たちは、ここ以外に帰る場所がない。
たとえ世界中から悪者扱いされようと、自分たちのことは自分たちで守り抜く以外に道はないのでしょう。


6月21日
東京 → エルサレム

> 危ない所でした、

危機一髪とはこのことですね。
亡くなった人がいることを思えば、ともあれ良かった、とはいえないです。

こういっては酷かもしれないし、現実を知らない者の脳天気な考えといわれるのは承知ですが…、
U太郎クンが遭遇したのと同じように、イスラエル軍の砲火にされされ、日常的に銃口を向けられ、そんな状況に絶望したパレスチナ人が、爆弾を抱えて人混みに向かうんですよね。

自爆テロを認める気持ちはないです。政府の強攻策に直接には関わっていない市民(留学生も!)を巻き込むテロなど、どんな思想信条が背景にあろうとも容認しません。
同じように、崩壊寸前の自治政府に守られることもなく、日常的に生命の危機にさらされているパレスチナ人に砲口を向けることも容認しません。
次第にエスカレートしていく憎しみの対立を、くい止めることはできないのか!

領土問題はとりあえず不問とし、まずはパレスチナの独立を認めるというアメリカの和平案は、当事者のイスラエルのみならず、サウジなどイスラム諸国も疑義を表明し、頓挫しそうな気配ですね。
ごり押ししていっそう混乱するのもいけないし、といってこのままでもいけないし…。
東京にいて、脳みその中身まで混沌としています。
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