■こんな本を読んだ −−2008年8月


◎真保裕一『奪取(上・下)』講談社文庫
若いアウトローが、恨みのある暴力団と銀行に一杯食わせようと、偽札作りに全てをかける。場面に適度な緩急があり、飽きることなく一気に読みした。痛快です。

◎真保裕一『ダイスをころがせ!(上・下)』新潮文庫
郷里の都市再開発計画の怪しさを追究しようと、国政選挙に打って出る男たちを描く。まだ読みかけだけど、選挙の舞台裏や、そこで起こるドラマがリアルに描かれていて、実に面白い。仕事そっちのけで、読書休憩ばかりしています。

◎真保裕一『連鎖』講談社文庫
放射能汚染食品を違法輸入する業者を追い詰める元厚生省職員を描く、著者の出世作といえる作品。テンポよく話が進み、ぐいぐい読まされた。ただ登場する企業が多く、伏線も入り組んでいて、それらを把握するのに苦労した。

◎真保裕一『灰色の北壁』講談社文庫
山岳ミステリーの短編集。文章のボリュームにしては、構成に凝りすぎている感じがした。

◎真保裕一『奇跡の人』新潮文庫
交通事故で記憶を失った青年が、自身の「過去」を追い求め、探し当てた「過去」の過酷さに葛藤する。なかなか先に進まずもどかしいのと、都合がよすぎるエンディングが気に入らない。

◎真保裕一『ストロボ』新潮文庫
カメラマンの年代ごとのエピソードを描く連作短編集。なんだか無理に女性関係を絡めている感じがして、好きになれない。真保作品では、『奪取』や、前号で紹介した『ホワイトアウト』のような、アクション大作が好みに合います。

◎野尻抱介『沈黙のフライバイ』ハヤカワ文庫
スペースSF短編集。現時点で考えられるテクノロジーを積み上げ、リアリティを伴って展開するストーリーにハマッた。ハイテクを駆使した「凧」で宇宙を目指す「大風呂敷と蜘蛛の糸」がぼくのツボ。

◎野尻抱介『太陽の簒奪者』ハヤカワ文庫
太陽の周囲に巨大リングを構築する地球外生命体とのコンタクトを描くSF長編。生命とは何か、思考とは何か、といった哲学的な命題にも迫る力作。

◎野尻抱介『ふわふわの泉』ファミ通文庫
夢の新素材「ふわふわ」を発明した化学フリークの女子高生・泉が、理想が現実に阻まれる実社会を捨て、宇宙を目指す。泉の発想力と行動力によって、話がどんどん膨らんでいくさまが愉快、痛快。これ、ライトノベルに収めておくのは惜しいですよ。

◎森巣博『蜂起』幻冬舎文庫
問題を抱え行き場を失った「善良な市民」が、現状打破を目論み破壊活動を始め、やがて社会が暴走する…。アナーキーな描写に賛否はあろうが、「個人よ、立ち上がれ!」というメッセージは、今の社会に鋭く突き刺さるものだ。

◎多島斗志之『症例A』角川文庫
多重人格を疑われる少女の治療にあたる、精神科医師の葛藤を描く。医療ものを超えた人間ドラマが胸に迫る。

◎矢口敦子『償い』幻冬舎文庫
ホームレスとなった医師が、若い頃に救った子どもが犯しているらしい犯罪の真相に迫る。文章が巧みで面白く読み進めたが、エンディングで唖然。こりゃないよ。人間って、そんな簡単に変わらないって。
いったんそう感じると、読み流していた表現のアラが気になってくる。初対面と思って話していた相手が、実は過去に接点のある人で、相手は最初からそれをわかっていた。だったら普通、「お久しぶりです」とあいさつするだろうが…。そんな不自然さが、あちこちにあった。

◎桜庭一樹『赤×ピンク』ファミ通文庫
アングラで行われるガールズ・ファイトのファイターたちの心の内を描く連作短編集。どれもハッピーエンドではないのだけど、気持ちよくストンと腑に落ちるのが不思議。

◎熊谷達也『ウエンカムイの爪』集英社文庫
北海道で羆の生態調査をする大学教授の秘められたドラマを描いた中編。人間と自然との関係のあり方に対する疑問を、穏やかに訴える。

◎川端裕人『川の名前』ハヤカワ文庫
小学5年生の少年たちが、まち中の池で密かに暮らすペンギンと出会い観察を続けたが、やがてマスコミに知られることとなり…。親子関係、将来への不安、社会や大人への不信感。思春期の入り口にさしかかった少年たちが、冒険を通じて成長する姿がすがすがしい。

◎恩田陸『蒲公英草紙 常野物語』集英社文庫
明治末期の農村を舞台に、過去を記録するという不思議な能力を持つ人々をめぐるエピソードを描く。懐かしさと温かさが読後に残った。

◎瀬尾まいこ『天国はまだ遠く』新潮文庫
死の旅に向かった若い女性が、ひょんなことから民宿の若い主人と出会い、生きようとする力を取り戻す。恋愛に発展しそうでしない、適度な距離感が心地よい。主人の田村さんの大ざっぱさがGOOD。

◎瀬尾まいこ『幸福な食卓』講談社文庫
互いに思いやりながらも、ちょっとヘンな生活をしている家族の、揺れ動く心情を描く。著者のユーモア感覚や、紡ぎ出される空気感が気持ちよい。ラストシーンが素っ気なく、もちっと先を描いてよ…と思ったが、アルコールが入っているときに読んだからかも。こんど平時に読み直してみるつもり。

◎ハリー・アダム・ナイト『恐竜クライシス』創元推理文庫
富豪が蘇らせて密かに飼っていた恐竜が逃げ出し、田舎町がパニックに…。『ジュラシック・パーク』より前に、同じアイデアで、しかも人が住むまちを舞台にした恐竜パニックが書かれていたとは驚いた。緻密かつスリリングなストーリーにハラハラドキドキしっぱなし。

◎筒井康隆『七瀬ふたたび』文春文庫
『家族八景』のエスパー七瀬が、自身と仲間たちを守るために、見えない敵と熾烈な戦いを繰り広げる。七瀬、せつないッス。

◎桐野夏生『I'm sorry, mama.』集英社文庫
桐野ファンには申し訳ないけど、ぼくにはダメ。主人公にまったく共感できない。以前読んだ『残虐記』も後味が悪かった。作品としての善し悪しとは関係ない部分で、桐野作品は肌に合わないようです。

◎沢木耕太郎『冠(コロナ) 廃墟の光』
アトランタオリンピックを現地で観察した著者のレポート。商業主義に汚染された近代五輪はいずれ滅びると、著者は断言。ぼくも同感。テレビ中継のために深夜までプレイが続く北京オリンピックを見て、ますますそう思う。

◎椎名誠『岳物語』『続・岳物語』集英社文庫
著者と息子・岳との親子関係を描いた作品。父親と息子の関係を描く物語に、ぼくは弱いんです。ただエッセイのようで小説のようで、その曖昧さが椎名ファンとしてはもやもやする。事実そのまんまじゃ描けないこともあるんだろうなと、無理矢理納得。

◎植村直己『極北に駆ける』『北極圏一万二千キロ』文春文庫
冒険家の植村さんが30歳代で成し遂げた、エスキモーとの生活と北極圏の冒険旅行のドキュメント。何度目の再読だろうか。ときどき、この過酷な生活と冒険を描いた作品を無性に読みたくなる。

◎泉流星『僕の妻はエイリアン 「高機能自閉症」との不思議な結婚生活』新潮文庫
周囲に変わり者と思われている、自閉症の女性の日常を赤裸々に描く。いわゆる「正常者」と「障がい者」の境界は明瞭でなく、グレーゾーンの人たちに苦労が多いことを知った。あとがきでの告白にビックリ。

◎非日常研究会『ライオンの飼い方 キリンとの暮らし方』新潮OH!文庫
ライオン、ゾウ、キリン、ゴリラ、コビトカバ、ナマケモノ、イルカ…といった動物たちを、ワンルームマンションで飼うためのノウハウをまとめた手引き書。突き抜けたバカバカしさがいいですね。


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