■こんな本を読んだ −−2012年8月

今回はノンフィクションがほとんどです。
ミステリーなども何冊か読んでますが、
ピンときたのがなかったもので。


◎中村征夫『海も天才である』角川文庫
水中カメラマンの第一人者によるエッセイ。水中カメラマンという職業について、世界各地の海について、魚たちのユニークな生態について、個性的な人たちとの交流について、などなど、興味深いエピソードがてんこ盛り。

◎洪在徹・鄭俊圭『海のサバイバル(かがくるBOOK−科学漫画サバイバルシリーズ)』朝日新聞出版
息子が図書館から借りてきた学習マンガ。遊びに行った海で思いがけず漂流してしまう主人公親子が、知恵を絞って生き延びる様子を描く。子ども向けでありながら、現実に即したリアルな内容。ちなみに、このサバイバルシリーズは小学生に人気で、図書館でも貸し出し中のことが多いです。

◎スティーブン・キャラハン『大西洋漂流76日間』ハヤカワ文庫
右の本に触発されて再読。ヨットレース中の事故により、ゴム製救命ボートで二か月以上漂流しながら生還した著者の手記。手元に残ったわずかな道具を駆使し、知識を総動員して困難を乗り越えていく。できるだけ悲壮感を排して書いたとのことで、壮絶ながら前向きな内容となっている。

◎市橋達也『逮捕されるまで 空白の2年7カ月の記録』幻冬舎
千葉県市川市で英会話講師が殺害された事件で、死体遺棄の疑いで逮捕された著者の逃亡記。著者が犯したとされる犯罪そのもの以上に、何も持たずに逃げ出し、二年半も逃亡し続けた生命力に関心を抱く。着の身着のまま、わずかな所持金だけで居場所をなくしたら、自分は生きていけるだろうか……と考えながら読んだ。

◎にしかわたく、岡本まーこ、常岡浩介『常岡さん、人質になる。』エンターブレイン
アフガニスタンで拉致され、一五七日間拘束されたジャーナリストの人質騒動の顛末を、共同生活者(夫婦・恋人ではないとか)がまとめたコミックエッセイ。現地の様子や犯人の素顔、人質生活の日々、日本で心配している人たちの日常をコミカルに描く。……それでも地球は回ってるんだよなぁ、という感想。

◎服部文祥『狩猟サバイバル』みすず書房
最低限の道具と食糧を持って山行する「サバイバル登山」を実践する著者が、食糧の現地調達をも企てる。野生動物と同じ地平に立ち、「自然の掟を前によりフェアに生きるために」「自分が食べるものは自分で殺す」。著者の信念がほとばしるノンフィクション。

◎久保俊治『羆(くま)撃ち』小学館
図書館で右の作品の近くに並んでいたのを借りた。こちらはプロ猟師の自伝。日本最大の肉食獣と対峙する猟師の、覚悟と心意気に圧倒される。著者は一時期、アメリカでハンティングガイドをしており、日本の猟とアメリカのハンティングとの違いも語られて興味深い。

◎中村計『甲子園が割れた日 松井秀喜5連続敬遠の真実』新潮文庫
一九九二年夏の甲子園。星稜対明徳義塾戦で、超高校生と呼ばれた星稜の四番バッター・松井秀喜が五打席連続で敬遠された。マスコミでも非難されたこの試合の現場にいた選手、指導者、関係者は何を思い、何を行ったか。その「事件」は彼らのその後にどんな影響を及ぼしたのかーーを丹念に追ったノンフィクション。型にはまった正義感では語れない、悲喜こもごものドラマ。

◎田向健一『珍獣の医学』扶桑社
卵詰まりのカメ、石を誤飲したアマガエル、大腸がんのヘビ……。一般の動物病院では断られるような患畜も治療することから、珍獣獣医と呼ばれる著者のエッセイ。飼い主にとってはイヌやネコと同じ大事なペットだと、試行錯誤を繰り返しながら奮闘する。著者のブログ(http://jigumo2001.blog116.fc2.com/)もおもしろいです。

◎宮田珠己『ジェットコースターにもほどがある』集英社文庫
エッセイストでジェットコースターマニアの著者が、日米のコースターに乗りまくった体験記。アメリカ取材や座談会などに同好の士が多数登場。マニアの世界の奥深さに感心した。

◎中井宏美『あなたの子どもを辞めました』マガジンハウス
幼いころから実母に殴られ、罵倒され、「自殺しろ」とまで言われてきた著者が、成人して家を出て、心理的葛藤から抜け出すまでの手記。どのような暴力を受けながらも、親を慕い、親にすがり、そして裏切られる著者の心情が切ない。

◎鯨統一郎『富士山大噴火』講談社文庫
大災害を描いたクライシスノベルに興味があり(といいつつ『日本沈没』は未読)、著者も気になっていたので読んだ。が、大ハズレ。情報量は多いが、それがリアリティにつながっていない。暇つぶしの読み物レベル。

◎石黒耀『死都日本』講談社
右の作品の感想をネットで読んでるときに知った作品。こちらは読み応え満点。九州南部の霧島が“破局噴火”し、南九州は壊滅。噴煙は日本全土はもとより北半球を覆い……。大災害に巻き込まれる地震学者の視点と、日本の存亡を賭けた総理大臣の執念とが結びつくエンディングに圧倒される。これぞクライシスノベル、こういうのが読みたかった。

◎石黒耀『震災列島』講談社
同じ著者の作品。名古屋の住宅地を乗っ取ろうとする暴力団の企てにより、娘の命を失った父親と祖父が、間もなく発生すると予知された東海地震に便乗して復讐する……。あれこれとご都合主義なのが気になるが、最後までハラハラしながら読んだ。でまたストーリーよりも、地震と津波の被害の描写が、3・11と符合していることに驚いた。力量のある小説家の想像力は未来をも予見するのか、と。

◎町山智浩『アメリカは今日もステロイドを打つ USAスポーツ狂騒曲』集英社文庫
「デカく、強く、それはアメリカの思想だ」。スポーツ選手はステロイド剤で体を大きくし、スポーツ一途の生活を送る。そんな、いわゆる筋肉バカたちの珍騒動・迷惑事件の数々を掬い上げたエッセイ。オリンピックでアスリートたちの活躍に目を奪われているけど、その裏側にはいろいろと弊害があるんだよなぁ…… アメリカに限った話じゃないけど。


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