■こんな本を読んだ −−2014年8月

■テレビ番組で見て知ったのだけど、東京・渋谷に、図書館と飲食店が合体した「森の図書室」がオープンした。自由に読める本が棚に並んでいて、グラスを傾けつつ静かに読むもよし、本や作家を話題にして仲間とワイワイ喋るのもよし。飲みながら読むのが好きなぼくとしては、この店いいなぁ……と羨んでおります。ということで、アンケートです。

◎ウェンディ・ムーア著、矢野真千子訳『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』河出書房新社
「近代外科学の開祖」とも呼ばれ、種痘法を開発したジェンナーの師匠でもある十八世紀の解剖医の伝記。観察と実験に基づいた新しい治療法を次々と考案し、後のダーウィンの進化論に通じる生物学史をも考察していた才人だが、一方で、解剖するための死体を非合法に入手(墓場からの盗掘、葬儀業者への賄賂)するなど、手段を選ばないことでも知られた。賛否両論に晒された「数奇な生涯」は、一気読みに値する面白さ。

◎西岡研介『スキャンダルを追え! 「噂の眞相」トップ屋稼業』河出文庫
時の総理大臣・森喜朗の買春検挙歴報道など、スクープ記事を連発したウワシン記者の裏話本。安倍政権の傲慢かつ強引なやり方を目にするにつけ、今こそウワシン的アウトロー派の雑誌ジャーナリズムが必要だ。

◎泉康子『いまだ下山せず!』宝島SUGOI文庫
冬山で行方不明となった仲間を捜索する、同じ登山会のメンバーたちの姿を当事者が綴るノンフィクション。生還者の手記や作家のルポは読んできたが、当事者による文章から伝わってくる苦悩は、比較にならないほど生々しくて重い。

◎内澤旬子『飼い喰い 三匹の豚とわたし』岩波書店
『世界屠畜紀行』(解放出版社)の著者が、自ら飼育した豚を食べる顛末を綴ったルポ。好奇心を満たすために、わざわざ廃屋を借りて豚と暮らすという酔狂さが、この人の魅力。

◎同『捨てる女』本の雑誌社
大病を患った後に、モノへの執着心を失った著者が、収集し続けてきた雑多な品々や生活習慣をも処分?していくエッセイ。内澤作品から伝わってくるカオス感の背景が伺い知れて興味深かった。でまた、断舎利を経て著者がこの先どんな活動をしていくのか、興味深い。

◎大野更紗『困ってるひと』ポプラ文庫
原因不明な難病に冒された大学院生が、壮絶な闘病体験を軽妙な文体で綴ったエッセイ。文章は食い足りないのだけど、難病患者が置かれている状況やその心理を興味深く読んだ。

◎NHKスペシャル深海プロジェクト取材班+坂元志歩『ドキュメント 深海の巨大イカを追え!』光文社新書
昨年話題となった生きるダイオウイカの映像は、何年ものチャレンジと幾度ものプロジェクト終了の危機を乗り越えて撮影されたのだった。壮大なロマンを追い求めた末の快挙……ではあるけれども、本書を読むと、イカの撮影のためにそこまでするか、と醒めた気分にもなってくる。まあでも、当の番組はDVDに焼いて永久保存版にしたし、テレビで「深海魚特集」とかやってると、コーフンしながら見ちゃうのであります。

◎長沼毅『死なないやつら 極限から考える「生命とは何か」』講談社ブルーバックス
長沼先生の極限生物学の話が好き。生命史の話も好き。この手の本をいくつも読んでいるのに、「生命とは何か」は未だによくわかってない。

◎小林朋道『なぜヤギは、車好きなのか?』朝日新聞出版
人間動物行動学者による、ヤギにまつわる面白エピソード満載のライトエッセイ。テーマが明確だからか、築地書館の『先生、〜です!』シリーズよりも内容が濃いと感じた。

◎木村俊介『善き書店員』ミシマ社
六人の現役書店員へのロングインタビュー集。書店員がどんなことを考え、何を大事にしながら働いているのかがよくわかる。

◎白戸圭一『ルポ 資源大陸アフリカ 暴力が結ぶ貧困と反映』朝日文庫
◎川原尚行・文、内藤順司・写真と文『もうひとつのスーダン 日本人医師川原尚行の挑戦』主婦の友社
◎宍戸健一『アフリカ紛争国スーダンの復興にかける』佐伯印刷(株)出版事業部
◎アリス・ミード著、横手美紀訳『イヤー オブ ノー レイン 内戦のスーダンを生きのびて』すずき出版
◎葉田甲太『僕たちは世界を変えることができない』小学館文庫
仕事絡みでアフリカ・スーダンの国情や草の根NPO活動を知るために読んだ。

◎以下、今回読んだホラー作品。あまりピンとこなかったのでタイトルだけ。
◎羽田圭介『黒冷水』河出文庫
◎飴村行『粘膜人間』角川ホラー文庫
◎小林泰三『完全・犯罪』東京創元社


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